さまざまな眼の病気

全身病と眼(感染症)

■はじめに
全身に症状を生じる感染症のなかで眼に障がいをきたす可能性がある病気には、①赤ちゃんの時にお母さんのお腹の中で感染する、②出産で産道を通る際に感染する、③生まれてから感染する場合があります。ここでは①妊娠中の胎内感染、②出産時の産道感染のために眼に合併症を伴う疾患について説明します。
■胎内感染症
・先天風疹症候群:お母さんが妊娠中に風疹ウイルスに感染することで、赤ちゃんに障がいが起こる病気です。お母さんが風疹に感染し治癒して一定期間を過ぎてから妊娠しても赤ちゃんに感染することはなく、赤ちゃんが先天風疹症候群になったとしても、その次の妊娠で同じようなことは起こりません。発生頻度は感染した妊娠期間で異なります。①白内障、②感音性難聴、③心疾患が3つの主な症状です。白内障は様々な程度があり、その程度によって手術する時期を判断します。しかし水晶体そのものにウイルスが存在しているため、あまり早く手術を行うと眼の中にウイルスをまき散らし他の重篤な合併症を引き起こすことがあります。生後数か月間は、赤ちゃんはウイルスを排泄しているため、手術を行う際は慎重にウイルス抗体価の推移をみながら判断します。その他に網膜色素の異常や緑内障、角膜混濁、小眼球症の合併症もあります。また予防対策としては、妊娠可能な年齢の女性が風疹抗体をもっていない場合には、妊娠前する前に積極的にワクチンで免疫を獲得しておくことが望まれます。
・先天トキソプラズマ症:お母さんが妊娠中にトキソプラズマという原虫に感染することで、赤ちゃんに障がいが起こる病気です。その次の妊娠で再度発症することはありません。①水頭症、②網脈絡膜炎、③脳内石灰化、④精神発達遅滞が主な症状として知られています。網脈絡膜炎は通常両眼性で、多くの場合視力に大事な黄斑部に病変を起こすので、しばしば視力障がいをきたします。またぶどう膜炎も起こすことがあり、これは一生のうちいつでも繰り返す可能性があります。他には小眼球、白内障、視神経委縮などを認めることもあります。症状が出ない感染(不顕性感染)となった場合も、眼の症状はおおよそ思春期頃まで遅れて発症するリスクがあります。急性に網脈絡膜炎が悪化する時は抗原虫薬や内服での治療が必要になります。白内障は視力が出る可能性があるかを、色々な検査を行った上で判断し、手術をするかどうか検討します。
・先天梅毒:梅毒にかかっている女性が妊娠した場合、妊娠中に梅毒に感染した場合に赤ちゃんに障がいがおこる病気です。発症の時期は乳幼児期に起こる早期と小学生以上になって起こる晩発性とに分けられます。皮膚の発疹、鼻炎、肝炎、骨格異常、関節炎、神経病変、難聴、歯の形成不全などが全身でみられ、眼の症状は角膜実質炎、網脈絡膜炎、ぶどう膜炎、視神経委縮がみられます。妊娠初期の検査で梅毒感染が確認されれば抗生物質の投与で治療します。子どもが先天梅毒になった場合も同様に抗生物質の投与を数か月行います。早期発見、早期治療が大事です。
■産道感染症
・単純ヘルペスウイルス感染症:お母さんが性器単純ヘルペスに感染していた場合に、経腟分娩の際に赤ちゃんに感染します。2~10日の潜伏期間後、皮疹が出現し、肝脾腫、末梢循環器不全、出血傾向、けいれんなど重い全身症状で発症します。抗ウイルス薬を使用しても死亡率と後遺症発生率は70~80%と高率です。眼の合併症としては、眼瞼の水疱を伴った結膜炎と眼瞼炎、網脈絡膜炎、ぶどう膜炎、白内障などがありますが、最も重篤な眼の合併症は急性の角結膜炎です。全身症状に対して抗ウイルス薬の投与、点眼、眼軟膏などで治療します。
・細菌性(淋菌性)角膜感染症(新生児膿漏眼):お母さんが淋病などの性行為関連感染症にかかっていて産道に細菌がいると、出産後2~7日で発症します。クリーム色で膿状の目やに(眼脂)が大量に出現し、白目(結膜)が充血し、眼瞼が腫脹し、黒目(角膜)が白く濁ります。感染が目の中にも広がって膿が充満し、さらに角膜が溶けて破れると完全な失明に至ります。発症から失明まで数日で進行することがあり、以前は赤ちゃんが新生児の時に失明する原因の上位になっていました。現在では、産院や病院で出産した赤ちゃんにはすべて出産直後に抗菌薬を点眼されるようになって激減しました。また妊娠がわかると産婦人科で、お母さんの産道をチェックし細菌が見つかると出産前に治療されるようになり、ほとんど見られなくなりました。しかし、いったん発病すると現在でも失明する危険がありますので、妊娠がわかった時点で、検査を受けて出産前に母体の治療を行い、出産直後から赤ちゃんに予防的治療などを行うことが重要です。
■治療と管理
胎内感染や産道感染のうち治療や予防が可能な感染症に関しては赤ちゃんが発症してから治療するよりも、妊娠の可能性がある女性や妊娠が確認された女性について検診と予防、治療を行うことで赤ちゃんへの波及、発症を予防することが、より重要です。しかし赤ちゃんに発症してしまい、病気によって網脈絡膜炎や視神経委縮などで組織が傷んでしまった場合、それを戻す方法はありません。それぞれの症状に対して治療していく対処療法になります。定期的な視力検査や眼底検査などでお子さんの状態を確認し、他の合併症が起こらないかをみていく必要があります。その上で必要であれば眼鏡処方や手術なども検討していく必要があります。

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