さまざまな眼の病気

先天網膜分離症

■はじめに
遺伝性網膜疾患の一つで若年期に網膜の黄斑部および周辺部に傷みが出現します。X染色体連鎖性網膜分離症(X-linled retinoschisis:XLRS)とも称される様に、遺伝子の異常を持ったお母さんから生まれる男子で発症します(遺伝形式は伴性劣性で、同定された原因遺伝子はXp22.2に位置するRS1)。網膜は光の受容器である視細胞と複数の神経細胞からなる層構造になっています。"Schisis"とはラテン語で「裂ける」という意味がありますが、網膜分離症は網膜が層間で裂ける結果、視細胞から神経細胞に情報が伝わらなくなる病態です。
有病率は10万人当たり3~20人と報告により差があります。北欧で行われた弱視のスクリーニングの報告によると、就学前に検査を受けた14,000人の内109 人が弱視と判定され、その内4人がXLRSでした。
■症状
発症は乳児期から学童期まで様々です。病気の進行にともない視力の低下(0.1~0.7)や周辺視野の障害を自覚する様になります。また、網膜剥離や眼内出血を併発する場合があり、視力や視野の障害はより重篤になります。
■診断・検査
診断には母方の男性、例えば、祖父に原因不明の視力不良者が存在するなどの家族歴が参考になります。検査としては眼底検査および網膜電図(electroretinogram:ERG)が重要です。眼底検査において典型例では黄斑部に車軸様(spoke-wheel)の特徴的な紋様がみられます。周辺部でも網膜分離の所見や網膜の内側の層に開いた孔などが確認されます。しかし、病初期にはこれらの変化が軽微なため眼底検査のみでは診断が困難な場合もあります。このため発見が遅れる傾向にあります。網膜電図は眼に光を照射して網膜の電位変化のパターンを記録する検査ですが、この疾患に特徴的な波形(b波振幅の減弱した陰性型)が診断に有用です。ただし、網膜電図は患者さんの協力が必要なため、就学年齢以降でないと正確な結果は得られません。
光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)という眼底の断層画像を撮影出来る装置を用いると、網膜分離の状態や黄斑部の嚢胞形成などの変化を捉えることが可能で、これにより詳しい病気の状態や進行程度が判断出来ます。
■治療・管理
現在のところ分離した網膜の修復や進行を止めるための確立した治療方法はありません。試みられている点眼薬がありますが、まだ十分な治療成績は得られていません。網膜剥離や眼内出血を合併した場合には手術が検討されます。併発症の早期発見を目的に定期的に診察を受けることが重要です。

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