水晶体脱臼
- ■はじめに
- 水晶体(レンズ)はチン小帯と呼ばれる細い糸で支えられています。チン小帯のもう一方の端は虹彩につながる毛様体に接着し、ちょうどトランポリンのように虹彩の後方、瞳孔の中心に位置するように固定されています。この水晶体が本来の位置からずれたものを水晶体脱臼と言います。細かく分類しますと、水晶体が完全に支えを失って後方の硝子体(ガラス体)のなかに沈むか、瞳孔を通って虹彩の前(前房)に出てくるのを水晶体完全脱臼、完全には脱臼せず一部支えを失って下方に沈んだ場合は亜脱臼と呼ばれます。また、ある方向にずれているものを水晶体偏位と呼ぶこともあります。またずれの方向によって、前方脱臼、後方脱臼、側方脱臼などと呼ぶこともあります。
- ■原因
- 水晶体脱臼はチン小帯が切れたために起こります。その原因には外傷、先天異常があり、まれには原因不明なこともあります。眼球の打撲や、破裂による脱臼は片眼性です。先天異常ではマルファン症候群、ホモシスチン尿症、マルケサニ症候群などがあり、さまざまな全身の異常とチン氏帯の異常をきたし、両眼性の脱臼を生じます。小児に見られる水晶体脱臼の多くは先天異常が原因です。
- ■症状
- 水晶体脱臼の症状は脱臼の程度により様々です。軽度の偏位では視力は正常です。ずれがひどくなると近視や乱視になるかあるいは、眼鏡で矯正しても視力が不良になる場合があります。水晶体が瞳孔の後方になくなるほどに脱臼すると裸眼の視力は高度に低下します。しかし、ホモシスチン尿症、マルケサニ症候群では精神発達障害を合併していることが多く視力障害を訴えずあるいは視力検査ができないことが多いので注意が必要です。水晶体が硝子体内に脱臼すると、ぶどう膜の炎症(ぶどう膜炎)をおこし、結膜充血をきたすことがあります。眼圧が上昇して(緑内障)角膜混濁、結膜充血をきたすこともあります。また水晶体前房脱臼では瞳孔がふさがれて緑内障になります。このときには緑内障の症状に加えて角膜の後に脱臼した水晶体が見えます。
- ■診断
- 散瞳薬を点眼して瞳孔を広げ、細隙燈顕微鏡で観察し水晶体が正しい位置にないのが確認できれば容易に診断できます。完全脱臼した水晶体がどこにあるかは眼底鏡を使って探します。緑内障やぶどう膜炎で眼内がよく見渡せない場合や、外傷で眼内に出血しているときには超音波検査やX 線CT が診断に役立ちます。
- ■治療
- 視力が正常かあるいは障害が軽い場合は、手術などは行わず、そのまま経過を観察します。なぜなら、白内障で水晶体を切除する場合には水晶体の中身だけを除去し外側の皮の部分(水晶体嚢)を残して、その中に人工眼内レンズを入れて術後の遠視を矯正するのですが、水晶体脱臼では水晶体嚢が正常の状態ではないので眼内レンズの挿入が難しいからです。眼内レンズが使えなくても、術後に眼鏡やコンタクトレンズで矯正は可能ですがケアが大変で、見え方の質も低いので軽度の脱臼ならば様子を見ます。完全脱臼や亜脱臼、視力障害が高度になれば水晶体を切除します。硝子体の中の水晶体を除去するには硝子体も同時に切除します。場合によっては眼内レンズを毛様体に縫い付ける手術も行います。
ぶどう膜炎、緑内障を合併すれば脱臼水晶体を切除します。また前房脱臼した水晶体も切除する必要があります。